マイマイカブリを採るために今年3度目のオサ堀り。我ながらイカれているとしか思えない。
なぜここまでマイマイカブリに執着するのかというと、その美しさに魅せられたからである。きっかけは宮城へアオガンを見に行った際に某Y氏が鳥見ついでに採ったものを見せてくれたこと。あまりの美しさにいっぺんに虜になってしまった。
こんな美しい昆虫を自分でも採ってみたい。そう思ってから1年以上、ついにそのときがやってきた(当然宮城産とは別亜種だけど)。
場所は前回の地点から数km離れたところ。木々がそれなりに茂っていると思いきや結構まばら。Googleマップ意外と当てにならん。そしてここも前回の地点と同じくカラカラに乾いている。一応木を見たり枯草を退けたりするが当然虫はいない。
マイマイカブリより猛禽が出そうだな。なんてことを思っていたら・・・
トビ
やっぱり出た。ノスリに至っては2羽同時に出た(羽の模様や傷のパターンが違うのがわかるだろうか?)。ここでは虫よりも鳥を見たほうが良さそうだ。しかし今回の目的はマイマイカブリである。名残惜しいがポイントを移動する。
ここは1kmくらい森が続くのでそのうち良い材が見つかるだろうと思っていた。
しかしその考えは甘かった。行けども行けども乾燥した森が続く。
実は今まで撮影したことがなかった。普段は家の近くによくいるのだが、カメラを買った2020年は何故か近所では見なかったのだ。こちらの視線に敏感なところはやはりカラスの仲間だなあ。
良さそうな材があまりにもないのでいつの間にか普通に鳥見をしていた。
コカマキリの卵嚢(卵鞘)
乾燥した材をひっくり返すと割れ目に卵嚢が。オオカマを普通と思って生きてきた僕からすると、カマキリが産卵のため材の下に潜り込むというのは想像し難い。
アオゴミムシ
見つけたゴミムシはこの1匹だけ。ゴミムシやオサムシにとって、ここは良くない環境と断定しても良いかもしれない。材も、その下の地面も乾ききっている。もう1度ポイント選びからやり直すことにした。
信頼して良いのかわからないGoogleマップで調べると、近くに良さそうな森を発見。マイマイカブリが採れるかはともかく、採りたいならそこへ行くしかない。
でも鳥がいたのでちょっと寄り道。時間で見ればこの時点でついでだったはずの鳥見がメインになっている。
水鳥に目を奪われながらも到着。そこには予想だにしなかった光景があった。
どの材もカラカラに乾燥しているうえ、大きめの材はほとんど削られている。中をほぼ完全にくりぬかれてしまった材もある。どうやらここは有名産地のようで先を越されてしまったようである。しかしこの有様は酷い。採集したというより荒らしたといったほうが良いだろう。
それにしても乾燥した材まで削るとはどういうことだろう。マイマイカブリを含めオサムシやゴミムシは湿った材にいるはずである。
しばらく考えていると、近所で起こったある異変を思い出した。クビワキンクロとルリビタキを見た近所の公園である。
近所の公園の記事はコチラ
クビワキンクロと鳥屋のマナーについて - コミュ障カラスの生き物ブログ
その公園のルリビタキが見られるポイントは、例年なら水が流れているが2020年の終わり頃から流れていない。そのすぐ近くにある小さな池も干上がっている。どうやら水不足のようである。
自分の勝手な推測ではあるが、雨が少なく材が乾燥しやすくなったのかもしれない。木がまばらでそれなりに開けているのも理由だろう。直射日光を遮るものはここにはない。材が荒らされた時期はわからないが、削られ砕かれた場所はより乾きやすくなる。その結果このような惨状となったのだろう。荒らされたのが数ヶ月前だろうが数年前だろうが、この材にマイマイカブリが来ることは当分ないだろう。
※2021. 1. 26 追記
ネットで見てみると2019年の台風で材や土壌が流されてしまったと考える人が多いようである。そちらのほうがありそうな気がする。
マイマイカブリは適度に湿った材で冬眠するというが、水不足となった場合はどうするだろうか。答えはおそらくより湿った場所へ移動することである。その場所とは、水辺の近くであり地中深くであり材の奥深くである。こうなったら素人がどうこうできるものではない。道具もないので完全に詰んでいる。
諦めて帰ろうとしたとき、一際荒らされた材が目に留まった。
何だこれは。鉈どころか斧か鍬かツルハシでも使ったのではないかというほどの荒らされっぷりだ。しかしこの材は太さ故かそこまで乾燥しておらず、芯のあたりにはクワガタか蛾の仲間と思われる食痕が目立つ。
気になったので見てみると芯の近くに茶色くフレーク状になった部分がある。しかもまだ湿り気があり、木の枝で軽く掘るとハサミムシが出てきた。
こういうところにいるんだよなぁ~と思いながら5cmばかり掘ると何か黒いものが。
ピンボケで申し訳ないが、これは完全にアレだ。手でつかんで引っ張り出す。
ヒメマイマイカブリ
ついに採れた!これがヒメマイマイカブリ!
あまり大きくなくアオオサより幾分長い程度だが、傷もない綺麗な個体である。思っていたより厚みがあり、エリトラの点刻も他のオサムシとは異なる独特な美しさを作り出している。
動きは鈍いがそれでもちょこまか動き回るのでまともな写真は最初の1枚だけ。良い写真を撮ろうといじくりまわしていると臭液を出されてしまった。匂いはアオオサと似ているように感じた。
おそらくこの奥にも何個体かいるのだろうが、これほど太い材を素手で割るのは不可能である。それに散々荒らされた場所をさらに荒らすのは気が引ける。採れた場所からしてこの個体は先客の採り残しと思われる。生き残った幸運な者たちをこれ以上採るわけにはいかないし、あまり長居してると自分がここを荒らした犯人にされるかもしれない。この1匹だけ確保して早々に引き上げることにした。
念願のマイマイカブリをようやく手に入れたわけだが、帰りの足どりは重かった。虫屋のマナーの悪さを見せつけられ、さらに自分もその「荒らし」に事実上加担してしまったわけなのだから。おそらくあそこにはもう二度と行くことはないだろう。色々と考えさせられる1日だった。
しかし帰宅後はマイマイカブリを採れた嬉しさがどんどん沸き上がり、夢中で撮影していた。我ながら情緒不安定すぎである。
スマホで撮影。照明を強く当てると頭部と前胸の青みが目立つしエリトラがうっすら緑がかるけど肉眼で見たときとはかなり印象が異なる。これだけ掲載したら以前ネット販売であった(今もある?)詐欺一歩手前の行為になりそう。
肉眼で見たときに一番近いのがこの写真。エリトラは少し灰色がかった黒で、頭部と前胸は青というより紺と言ったほうがしっくりくる。ただし光が少ないと頭部と前胸も真っ黒に見える。ちなみに全長は39mmだった。ヒメマイマイカブリでも大きいものは45mmを超えるらしいのでこの個体はまだまだ小さいほうである。
今回わかったことは、材割り採集が環境に与える影響の大きさと、水(というか雨)不足の深刻さだろう。木がまばらな場所の材や土は直射日光で乾燥しやすくなり、材が掘り出され割られることで乾燥が加速する。この状況では木々が鬱蒼と茂った場所のほうが採れるのではないかとさえ思えてくる。
とにかく、僕はあの場所にはもう行かない。人が荒らした場所で採っても少なくともその瞬間は嬉しくないことがわかった。鳥にしろ虫にしろ、やはり自分でポイントを開拓して自分で見つけることが一番嬉しいのだ。
成果
ヒメマイマイカブリ(1)