コミュ障カラスの生き物ブログ

生き物好きなコミュ障が気ままに書くブログです。

ホンセイインコ

最近バイトで東京に行くのだが、そのたびに

「東京ってホンセイインコ多くない?」

と思うのである。

ホンセイインコ(東京都杉並区)

ホンセイインコはアフリカとアジア南部(インド亜大陸)に分布するインコの仲間で、4亜種に分けられている。日本に持ち込まれたのはインドやスリランカなどに生息する亜種ワカケホンセイインコで、1960年代後半から1970年のペットブームに伴い輸入された。1969年に東京都内で輸入に使用されたコンテナが壊れ、100~200羽のホンセイインコが逃げ出すという事故があり、そのときの個体が定着したとされる。ちなみにほぼ同じ時期にイギリスやドイツでも野生化している。また、現在でもペットとして流通している。

全身緑色で嘴は赤い(東京都杉並区)

現在分布の中心となっているのは東京、神奈川、埼玉で、その他には千葉と群馬に少数が生息している。かつては愛知、京都、広島でも繁殖しており、新潟、長野、大阪、愛媛、宮崎などでも生息が確認され、国内における分布は1都2府15県に及んでいた。その後分布は縮小し、現在に至るというわけ。有名だった東京工業大学のねぐらも今はないという。

独特な鳴き声と色合いは日本の街中ではとても目立つ(東京都杉並区)

さて、ホンセイインコは神奈川では横浜市川崎市で見られるらしいが、偏りがあるのか筆者(横浜市在住)はほとんど見たことない。2年前(2021年)の夏にヤマモモの実を食べに来たのか一時的に近所に現れたが、すぐにいなくなってしまった。

家の近所に現れたホンセイインコ(神奈川県横浜市

ところが東京では、大きめの緑地や公園にはだいたいホンセイインコがいる。筆者は杉並区、世田谷区、練馬区、北区、文京区、大田区三鷹市東久留米市で姿を見たか、鳴き声を聞いており、あまり偏りなく生息しているように感じられた。この差は何なのだろうか?

森林よりも開けた環境を好む(東京都三鷹市

考えられることとしてはまず、筆者の近所はホンセイインコが定住するには適していないということが挙げられる。定住できない理由としては営巣場所がない、特定の時期にしか食べ物が手に入らないなどが考えられる。営巣場所がないだけなら訪れることもあるだろうが、食べ物が無ければわざわざそこを訪れる理由はない。

サクラの花蜜のほか果実や冬芽も食べる(東京都世田谷区)

また、ホンセイインコは集団でねぐらをつくる習性があるが、それはつまり、ねぐらとなる場所からあまり離れられないということでもある。もちろん鳥なので行動範囲は広く、哺乳類なら障壁となる道路や川もひとっ飛びであるが、生き物なので限界はある。東京都内にはねぐらに適した場所が、少なくとも筆者の家の周りよりは多いのかもしれない。ただ、同じく集団でねぐらをつくるカラスの場合、大小様々な規模のねぐらがあちこちにあり、日によってねぐらを替える個体がいることがわかっている。ホンセイインコもねぐらを替える個体が知られており、それならねぐらを渡り歩きながら分布を広げていってもおかしくなさそうだが、何故かそうはなっていない。カラスよりも体が小さいこと、個体数が少ないことが影響しているのかもしれない。

日中はつがいや小群で行動する(東京都杉並区)

あるいは、単に季節の問題ということも考えられる。一般に鳥類は食べ物が不足する冬には行動範囲が広がる。冬は鳥見に適した季節と言われる理由の1つがこれである。自分が東京を頻繁に訪れるようになったのはホンセイインコの行動範囲が広がる冬であり、それで何処にでもいるように見えたのかもしれない。

単独で行動する個体も見られる(東京都三鷹市

余談だが自分は野外でオスの成鳥のホンセイインコは見たことがない(花鳥園では見たけど→掛川花鳥園 - コミュ障カラスの生き物ブログ)。ワカケホンセイインコ(輪掛本青鸚哥)なのにワカケ状態のインコは見たことないのである。なんでだろう?と思ったけど、ルリビタキの青いのだってあんまり見た覚えがないのでそういうものなのかもしれない。鳥によってはオス成鳥は当たり前に見るけどね。

樹上性であり地上に降りることはほとんどない(東京都練馬区

少なくとも現時点では、ホンセイインコが在来生物に与える影響は小さいとされている。もともと日本にはインコがいないため、がら空きのニッチ(生態系地位)に入り込むことができたことに加え、分布が縮小したことから、ホンセイインコが日本の環境に充分に適応できていない可能性が指摘されている。筆者が子どものころは「スズメを木の洞から引っ張り出して巣を横取りする」とか「スズメを追い払いサクラの花の蜜を独占する」とか、スズメを追いやる魔の鳥であるかのように語られていたが、これらは特に根拠のないガセネタだったようである。個人的な感覚だが、ホンセイインコがいる東京の公園の鳥類相は、筆者の近所の公園の鳥類相とあまり変わらないように思える(住宅地の真ん中にある公園に住めるような鳥なんて限られているということかもしれないが)。

愛らしい見た目とは裏腹に獰猛....なんてことはない(東京都三鷹市

ホンセイインコの個体数は推定2000羽とされている。関東にしかいないと思うと多いのか少ないのかわからないが、現在微増傾向にあるとされ、今後の動向が注目される。アメリカザリガニのように古くに持ち込まれながら、最近になって生態系への影響が明らかになった生物もいるので油断はできないが、ネコやバスのような大きな影響を与える生き物ではない。また、農業被害も報告されておらず(原産地では農業被害が出ている)、糞を介した感染症のリスクも他の鳥と比較して高いものではない。そのため駆除が推奨されることも今のところはない。生物の駆除には膨大な時間と金がかかるので、リスクが低いのであれば後回しにしても構わないのである。

枝先の小さな実も器用につまみとる(東京都世田谷区)

個人的にはこのまま増えることも、農業被害を出すこともなく、平和に暮らしていってほしい。ちょっと不思議な隣人くらいのポジションに収まってくれれば「可愛い or かっこいいのに厄介者なんだよなぁ...」なんて悲しい思いをしなくて済むのだから。