コミュ障カラスの生き物ブログ

生き物好きなコミュ障が気ままに書くブログです。

蛾 ガ

※閲覧注意(一応)

 

皆さんは蝶と蛾、どちらが好きですか?

 

虫屋であれば「種による」と答えるであろうこの質問、筆者はされたことがない。というか、多くの人にとって蛾よりも蝶が好きなのは前提条件なので、こんな質問をしようと思うこともないだろう。

筆者もほんの数年前まで蛾が怖かった人なので、その前提条件は間違ってないと思う。ただ、あまりにも「蝶>蛾」のイメージが強すぎると感じることもある。2019年に行われたSEKAI NO OWARIのツアー「The Colors」で披露された楽曲Mr.Heartache。そのときスクリーンにはたくさんの蛾が映し出されていたのだが、あれを蝶と思っている人がそれなりに見られた(雑誌の記者も蝶と書いていた)。こんな華やかな舞台に蛾など出るはずがないという思い込みが人々にはある....というのはさすがに妄想が過ぎるだろうか?(補足しておくと蛾だと思っている人も結構いたので、単に目につきやすかっただけだろう)

 

さて、生物学的にチョウとは鱗翅目のアゲハチョウ上科、セセリチョウ上科、シャクガモドキ上科の3上科であり、それ以外の系統をガと言う。そして形態においてチョウとガの間に明確な違いは存在しない(違いはあるにはあるのだが例外が多すぎる)。また、一般の人は両者を自分の印象で識別しているようで、セセリチョウを見て蛾という人はいるし、ニシキオオツバメガを見たら多くの人は蝶と思うだろう。結局その人が蝶と呼びたいものを蝶、蛾と呼びたいものを蛾と呼んでいるのである。

キマダラセセリセセリチョウ科)

何かとネガティブなイメージが着くガだが、よく見るとかなり美しい。ニシキオオツバメガのような万人受けするビジュアルは無くても、それぞれ個性的な美しさを持つ(種数でいえば圧倒的にガが多いんだし)。

というわけで(唐突)ここからは筆者の印象に残ったガを挙げていきたいと思います。筆者も少し前まで苦手だったので、一応閲覧注意としておきます。

 

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カノコガ(ヒトリガ科)

漢字で書くと「鹿子蛾」。翅の斑点を小鹿の斑点模様(鹿の子模様)に見立てて名付けられた。普通種と聞くが筆者はあまり見たことがなかったため、初めて見たときの感動は大きかった。普通種でも探さなければ見つからないものなのである。

 

ギンツバメ(ツバメガ科)

白地に銀白色の線が走る美しいガ。名前もシンプルで美しい。でも薄暗い林縁で葉の上にとまっている様子はどこか不気味でもある。

 

ビロードハマキ(ハマキガ科)

一度見たら忘れられないであろう派手派手なビジュアルのハマキガ。南方系らしく1980年代の分布の北限は房総半島であったが、現在では東北でも見られるようである。

 

シロスジオオエダシャク?(シャクガ科)

石垣島で採集した個体。シロスジオオエダシャクにはヒロオビオオエダシャクというそっくりさんがいるのだが、シロスジには後翅の外縁沿いに白い筋があり、ヒロオビにはないという。この個体は筋がない。ということはヒロオビ?と思ったが、全体的な模様はシロスジに似ている。八重山産は本土産とは模様が違うようだが検索しても写真があまり出ず....というわけでよくわからん。

 

キアシドクガ(ドクガ科)

ドクガやチャドクガなどの有毒種が有名なドクガ科に属するが、キアシドクガは生涯を通じて毒はないとされる。日中、木の周りを群れを成して飛び回る姿はとても幻想的。ちなみに地肌は黒い。

 

コウモリガ(コウモリガ科)

原始的なガの仲間で細長い翅と細長い胴体、長く発達した前脚と中脚が特徴。この個体はメスで、捕まえたときに卵を産んだ。驚いたのはその勢いである。小さな卵が次から次へと、まるで水が流れるかのようにポロロロロ....と出てくる。卵は接着することなくコロコロ転がっていくので、無数の卵が地面を“流れて”いく。それが数分間止まることなく続くのである。もはや産むというより放出すると言ったほうが良い。飛びながら産卵するというのも本当なのではないかと思わせる、驚きの光景であった。

 

オオモクメシャチホコシャチホコガ科)

名前の通り木目模様が特徴のガ。この2枚の写真は別個体だが、24時間差で同じ場所で撮影した。普段は翅をハの字に閉じるが、下の個体は見ての通り翅を立てていた。翅をハの字に閉じる種でも、羽化して間もないときは翅を立てることがあるらしいので、この個体もそうだったのかも。

 

ムクゲコノハ(ヤガ科)

枯れ葉に似た前翅と派手な後翅を持つガ。ムクゲとは植物のムクゲではなく、動物の長く、ふさふさと垂れた毛を意味する尨毛(むくげ)のこと。↓の写真だとわかりやすい。

 

アカエグリバ(ヤガ科)

枯れ葉にそっくりなガ。でもこの個体は車にとまっているのでバレバレ。翅に3Dアートを描くムラサキシャチホコも、青い葉や人工物に平気でとまるので却って目立ってしまうこともある。枯れ葉に擬態しているのなら枯れ葉にとまれば良いと思うのだが、野外では葉の上などに枯れ葉がくっついていることは珍しくないので、とまる場所に無頓着でも問題ないのだろう。

 

フクラスズメ(ヤガ科)

スズメという名がついているが、スズメガ科ではなくヤガ科。成虫の姿が、冬にふっくらと丸まっているスズメの姿に似ているところからこの名がついたとされているが、似てるか....? ちなみに成虫越冬であり、この個体は1月に撮影した。

 

サビモンルリオビクチバ(ヤガ科)

石垣島で採集。名前の通り前翅に錆色の紋、後翅に瑠璃色の帯を持つ大型のガ。夜の森を歩いていたら筆者の持つ懐中電灯に向かって飛んできて大いにビビらされた。八重山遠征の最終日、その最後にライトトラップでも見なかった大きく美しいガが採れたこと、そしてこのガに気をとられたことで夜の森で迷子になりかけたことで、たいへん印象に残っている。

 

ヒメヤママユ(ヤママユガ科)

ガと言えばやっぱりヤママユガ科。大きな茶色い翅と目玉模様は一種のテンプレートである。上記のセカオワのライブに登場した蛾にも目玉模様や三日月模様があり、彼らをモデルにしていることがわかる。ヒメヤママユは秋に現れる小型のヤママユガであり、平地から山地まで幅広く見られる。筆者の近所でも探すとすぐに見つかった。小型といってもそこはヤママユの仲間。翅を広げると80mmほどはある。

 

オオミズアオヤママユガ科)

茶色っぽい種が多いヤママユガ科において、青白いオオミズアオオナガミズアオは異質である。初めて見たのは小学校低学年のときで、図鑑で見て知ってはいた(名前は忘れてた)が、生まれて初めて見る「自分の手のひらより大きな蛾」であったことに加え、「蛾=茶色」という当時の自分の固定観念を破壊する色合いに、気持ち悪い以外の感情が湧かず砂をかけて追い払ってしまった。まさかその時から10年以上も見れなくなるとは....

 

シンジュサン(ヤママユガ科)

上は石垣島でライトトラップをした際に飛来した個体。下は神奈川県某所の路上で行き倒れていた個体(↓のツイート)。翅の形からして上がオスで下がメス。巨大な翅を持ち、筆者は飛んでいる姿を見てコウモリかと思ってしまったほど。巨大な翅に反して胴体はヒメヤママユより小さい。だがそのアンバランスさが良い。目玉模様ではなく三日月型の斑も洒落ている。さらに翅の真ん中にはピンク色の帯。見れば見るほど美しいガである。

 

サザナミスズメ(スズメガ科)

翅に波のような模様があるスズメガ。生きているときは緑色がかった灰色をしているが、標本にすると色褪せて茶色くなってしまう。その美しさは生きているとき限定である。

 

ウンモンスズメ(スズメガ科)

緑色をした個体が多いが、茶色い個体もいる。この写真だとわからないが、後翅は赤くとても美しい(↓の動画終盤で確認できる)。この種も標本にすると色褪せてしまう。

 

モモスズメスズメガ科)

名前の由来は幼虫がモモの葉を食べるから、あるいは桃色をした後翅からと言われている。近縁のクチバスズメ(↓)は似ているが、一回り大きく後翅は暗褐色。この写真じゃわかんないけど。

クチバスズメスズメガ科)

 

サツマスズメ(スズメガ科)

八重山遠征でライトトラップをした際、一番たくさん飛来したガ。クモに捕食されているところも見られた(↓)。薩摩の名の通り南方系で、本州南西部が北限とされている。

サツマスズメを捕食するクモの仲間

 

シタベニスズメスズメガ科)

サツマスズメと同属であり、見た目もよく似ているが、全体的に赤みがかっており後翅は名の通り紅色。八重山でサツマスズメに交じって数匹が飛来した。

 

シモフリスズメ(スズメガ科)

渋い色合いの大きなスズメガ。非常に長い口吻を持っており、蛹の時点で口吻が突出している。全国に分布するが、筆者は西表島で初めて見てから2年以上見ておらず、ようやく地元で見つけたときはとても嬉しかった。

 

クロメンガタスズメスズメガ科)

筆者が蛾嫌いを克服するきっかけとなった種。大学生のころ帰宅途中に路上に落ちていたのを見つけ、大きさと人面模様が気持ち悪くて一度はスルーしたが、ここで中学時代のある出来事を思い出した。ある日の登校時、通学路に建っていたマンションの壁面に大きなガがとまっていた。高さはちょうど筆者の顔のあたりで、ガが苦手だった筆者は足早に通りすぎた。そして下校時、またそのマンションの前を通ることになるのだが、登校時に見たガが、壁面にとまった状態で潰れていたのだ。路上に落ちていたガを意図せず踏み潰してしまうのはわかる。しかしこのガは壁に、しかも当時身長140cmほどの筆者の顔の高さにとまっていたのである。うっかりなんてことがあるだろうか?ガを見るのは嫌だったが、潰れたガを見るのはもっと嫌だったし、誰かが意図してやったことが明らかなその状況に、筆者の気分は最悪となった。今回クロメンガタがいたのは路上。明日もこの道を通るので無惨な姿を見てしまう可能性は高い。引き返してクロメンガタを踏まれない場所に移動させることにした。ところが突っついてもゆっくり脚を動かす程度でほとんど歩くこともなかった。かなり弱っていたようである。もう長くないとわかってもこのまま放置はできなかったので、考えた結果持ち帰って標本にするという結論を出した。↓は当時のツイート。

標本にする際に顔とか色々じっくり見ることになり、だんだん平気になってきた。それどころか可愛いと思うようになった。そしてその後の八重山遠征でたくさんのガを見ることとなったが、そのとき不快な思いは全く無く、自分が蛾嫌いではなくなったことを実感した。嫌いと思っているものでもじっくり見ることで、好きになることもあるのだということがわかった経験であった。

 

ガは夜の世界を象徴する昆虫であり、実際代表的なガであるヤママユガスズメガは多くが夜行性である。探せば見つかるような種でも、普通に暮らしていると見る機会はあまりない。それゆえ異世界の住人のような不気味さを感じてしまうのだろう。だが彼らは灯火に飛来するという習性もあり、少し注意するだけで意外と簡単に見られる。また、種としては特定の時期・場所にしか見られなくても、ガ全体としては季節や環境に関係なく見ることができる。種数が多く同定しづらいという問題はあるものの、虫を始めるのにはぴったりではないかと思うのだが....どうだろうか?

12月の小雲取山(標高1937m)の山頂付近で見られたガの一種