コミュ障カラスの生き物ブログ

生き物好きなコミュ障が気ままに書くブログです。

糸を紡ぐもの

2月3日、Twitterにて「#節分なのでオニグモあげようぜ」というタグが出回り、筆者もその波に乗るべくフォルダを漁ってみた。「ハエトリグモばっか撮ってたからなあ~」なんて思っていたが、意外と見つかった。オニグモは結構身近なクモなのである。

 

フォルダを漁っていると色々とクモを撮ってたことがわかり、せっかくなので記事にすることにした。

 

オニグモコガネグモ科)

まずはタグにもなっているオニグモから。オニグモが属するコガネグモ科はクモの花形である。クモといえば円網を張ってその中心に座して獲物を待つものと多くの人は認識しているであろう。コガネグモ科はまさにそのような狩りを行うクモのグループ(例外あり)で、オニグモとて例外ではない。オニグモは夜行性であり昼間は隠れていることが多いが、時折昼間も網の上にいることがある。網も、夜に張って朝には畳んでしまうと言われているが、張りっぱなしの個体も見られる。非常に大きく迫力のあるクモで、人家周辺で見られる代表的なクモの1つである。

 

コガネグモコガネグモ科)

オニグモと同じくらい大きなクモで名前もよく知られており、普通種とされているが、最近は数を減らしつつあるという。筆者も片手で数えられるほどしか見ていない。闘争心が強く、鹿児島県にはコガネグモ同士を戦わせる「加治木くも合戦」という伝統行事がある。

 

コガタコガネグモコガネグモ科)

平地から山地の雑木林などで見られる、名前の通り小型のコガネグモの仲間。網の白い部分は白帯(隠れ帯)と呼ばれるもので、その機能については、「クモの姿を隠すため」「餌となる昆虫を誘引するため」「目立たせることで昆虫や鳥によって網が破られることを防ぐため」など諸説ある。同じ個体でも日によって白帯をつけたりつけなかったり、一部を省略してつけたりする。

 

ナガコガネグモコガネグモ科)

大型で、低い位置に網を張るので人家周辺でもよく見かける。筆者は子どもの頃、獲物をあっという間にグルグル巻きにする様子が面白くて、虫を捕まえてはこのクモの網にかけていた。このクモよりさらによく見かけるジョロウグモは、まず獲物に噛みついて、動きが止まったらゆっくり糸を巻きつけるので、子どもの頃は漫画やアニメに出てくる、一瞬で相手を縛り上げるクモが実在するのか疑問に思っていた。初めてナガコガネグモが一瞬で獲物をグルグル巻きにする様子を見たとき、アニメのようなクモは本当にいるのだと感動した。

ナガコガネグモの幼体。コガネグモの仲間の多くはX字型の白帯をつける(↑のコガタコガネグモの写真参照)が、ナガコガネグモは幼体は円形の白帯を、成体は縦長の白帯をつける。しかし例外はいるものである。

この個体は幼体だが成体と同じ形の白帯をつけている。

こちらの少し大きめの幼体も成体と同じ形の白帯をつけているが、上半分を省略して下半分だけつけている。

 

オオトリノフンダマシ(コガネグモ科)

トリノフンダマシは名前通り鳥の糞によく似た色合いをしているが、オオトリノフンダマシはそんなに鳥の糞に似ていない。形や模様からカマキリの頭のほうが似ていると言われることも。ただ、昼間は葉の裏に隠れているため、そもそも擬態の意味があるのかがよくわからない。なお、トリノフンダマシ類は夜行性で、夜になると横糸がたわんだ独特な水平円網を張りガを捕らえる。

 

ワキグロサツマノミダマシ?(コガネグモ科)

近縁のサツマノミダマシとの違いは腹部側面が暗褐色をしていることだそうだが、この角度からはよくわからない。拡大すると腹部側面が暗褐色をしているように見えるのでワキグロとしたが、もしかしたらサツマノミダマシかも。

 

ゴミグモ(コガネグモ科)

網の中央部に枯れ草や食べかすなどのゴミをくっつけ、そのゴミに隠れるという習性を持つクモ。ごく普通に見られるクモで、むしろゴミのせいで見つけやすい。擬態はほぼ完璧なのに。

 

スズミグモ(コガネグモ科)

コガネグモ科でありながら円網を張らず、粘着性のないシート状の網を張るクモ。似たような構造のシート網を張るサラグモ科とは異なり、糸が格子状に交わっているため、円網が変形したものと考えられている。南方系だが北上しているとされる。

 

コガネグモ科の一種の円網

クモは見れなかったので種は不明。円網だが2/3ほどしか糸を張っていない。網の中心部から右側に糸が伸び、葉にくっついている。おそらくこの葉の陰に網の主が隠れているのだろう。特徴的な網だから簡単に同定できるだろうとたかをくくっていたが、そんなに簡単にはいかなかった。候補はヘリジロオニグモ、アオオニグモ、ビジョオニグモ

 

ヤサガタアシナガグモアシナガグモ科)

ずっとアシナガグモだと思っていたが、腹面が一様に黒褐色なのでどうやらヤサガタアシナガグモのようである。地面に対し垂直に網を張るオニグモコガネグモとは異なり、彼らは水平に網を張る。水平な網は地中や水中から発生するハエ類やガガンボ類を捕らえるのに適しているとされる。

 

チュウガタシロカネグモアシナガグモ科)

以前オオシロカネグモとしてTwitterにあげてた(↓)けど、これはチュウガタシロカネグモだろう。腹部前方の「肩」の部分に隆起があり、黒点があるのがチュウガタシロカネグモの特徴だという。この個体は隆起はわからないが黒点はバッチリあるのでたぶんチュウガタ。

これらもチュウガタ?シロカネグモは水平に円網を張り、その中心にぶら下がるように定位するので普段見えるのは腹面だけ。そのうえ人の気配に敏感ですぐに隠れてしまうため、背面からの写真は撮りづらい。

 

メガネドヨウグモ?(アシナガグモ科)

水辺に水平円網を張っていたのに加え、腹部や脚の模様がそれっぽかったのでメガネドヨウグモではないかと思ったのだが、メガネドヨウグモ最大の特徴は頭胸部にある眼鏡状の斑だという。残念ながら頭胸部は写っていなかったので正体は不明である。

 

ジョロウグモジョロウグモ科またはコガネグモ科)

筆者の近所で最もよく見られるクモ。大型で派手な色彩と1mにも達する大きな円網はたいへん目立つ。その円網はオニグモコガネグモのそれとはだいぶ異なり、下方向に膨れた卵形をしており、網の上部に横糸はなく、縦糸が分岐するため網の内側と外側で縦糸の間隔はほぼ同じで、円網の前後に簡単な網を張るため全体としては三重構造になっている。また、古い横糸は金色に輝きとても美しい。

ナガコガネグモの項でも書いたが、少なくとも自分が観察した範囲では、ジョロウグモはまず獲物に噛みつき、獲物が動かなくなったらゆっくり糸を巻きつける。獲物が大きいと噛みついた後離れることがあるが、糸をかけて動きを止めることはしない。かなりリスキーに見える狩りだが、大して反撃できない小型の生き物を想定しているのかもしれない。目の細かい網は小さな昆虫でも捕まえられるし、網が大きいのも面積を大きくしてより多くの昆虫を捕まえるためかもしれない。しかし大型昆虫を捕らえているところもしばしば目撃されているし、自分もスズメバチを捕らえているのを見たことがある(↓のツイート)ので、本当に小型昆虫が主食なのかはわからない。ジョロウグモの円網は縦糸だけでなく横糸の間隔も密であり、こうした構造はむしろ大型の獲物を捕らえるのに向いているという話もある。

 

オオジョロウグモジョロウグモ科またはコガネグモ科)

南西諸島に生息する体長5cmにもなる大型のクモ。写真は奄美大島で撮影した黒化型。1~2mにもなる巨大な円網を張り、小鳥やコウモリまで捕らえると言われる。網の構造はジョロウグモに似ているが、より原始的とされる。ジョロウグモ同様大物を積極的に狙っているのかは不明。

 

ネコハエトリ(ハエトリグモ科)

コガネグモ科ほどではないが、ハエトリグモも有名なクモのグループである。小さな体、よく発達した眼、高い跳躍力を持ち、人家周辺でもよく見られる。ネコハエトリは普通に見られるうえにハエトリグモとしては大型で目につきやすいので、おそらく筆者が最も多く撮影したハエトリグモである。写真は上がオスで下がメス。このメスは撮影中、突然糸を出した。その糸は風に流され筆者の持つカメラにくっついた。するとメスは糸を引っ張ってピンと張った状態にすると、その糸を伝ってカメラに渡ってきた。ジャンプでも届かない場所にはこうやって移動するようである。

野外でのネコハエトリの闘争シーン。まずは脚を高く掲げ、その後は押し合い、がっぷり四つに組み合う。クモ同士の争いは古くから人々の注目を集めていたようで、クモ同士を戦わせる遊びに使われるクモはコガネグモだけではない。ネコハエトリを戦わせる遊びは「フンチ」または「ホンチ」と呼ばれ、千葉県や神奈川県では今も行われているという。筆者は神奈川生まれだが全く知らなかった。

 

シラヒゲハエトリ(ハエトリグモ科)

人家の壁や石垣によく見られるハエトリグモ。体は偏平で白い毛が目立つ。むくむくして可愛らしい。ハエトリグモは眼が良いためカメラ目線の写真が多いが、シラヒゲはあんまりカメラ目線の印象はない。

 

マミジロハエトリ(ハエトリグモ科)

頭部の白いラインが名前の由来。ただしオスのみ。こちらも普通種だが、ネコハエトリやシラヒゲハエトリほどは見ない印象である。

 

アリグモ?(ハエトリグモ科)

写真はメスで、オスは巨大な大顎が目立つ。アリグモ属は同定が難しいらしいので自信はない。アリグモの仲間はその体型ゆえに、ハエトリグモの仲間なのにジャンプが苦手だという。

 

マダラスジハエトリ(ハエトリグモ科)

オニグモのタグを知りフォルダを漁っているときに発掘した写真。ネコハエトリがたくさん見られる柵の上に、なにやら見慣れない大型のハエトリグモがいたので撮影したもの。この記事のために同定してみると、マダラスジハエトリのメスだと判明。林内の樹上や草の上に多い種だという。樹上性ならあまり見ないわな。

 

ウズグモの一種(ウズグモ科)

種は不明。ウズグモという名前は渦巻き状の白帯からつけられた。彼らの円網はコガネグモ科のものと似ているが、横糸の構造が違う。コガネグモ科の横糸には粘りつく粘球がついているが、ウズグモ科の横糸には粘球がなく(そもそも粘球をつくる出糸器官を持っていない)、代わりに直径約0.01㎛(!)の非常に細い糸で横糸の周りをコーティングしており、これが獲物の脚などに絡まることで捕獲しているとされる。また、微細な糸構造によって獲物と糸の間にファンデルワールス力が働いているという説もある。ちなみに、ウズグモ科は毒腺を持たず、獲物は糸を巻き付け圧死させるんだとか。

 

ガザミグモ(カニグモ科)

柵の上でじっとしていた個体。わかりづらいが左前脚(第1歩脚)が再生脚なのか短い。第3歩脚は全部白く、第4歩脚は根元だけ白い。目は小さいが色合いもあって目立ち、個性的な顔立ちをしている。よく似た種にワタリカニグモというのがいるらしいが、ガザミってワタリガニのことだよな?なんでそんなややこしい名前を?と思ったがどうやら「ワタリ+カニグモ」らしい。

 

クサグモ(タナグモ科)

写真は成体。幼体は全身赤色で、別種かと思うほど見た目が違う。シート網を張り、その末端に管状の住処をつくってそこに潜む。ちなみに住処の末端には非常口があるとか。この個体はなぜかシートの上でぼんやりしていた。この写真をよく見ると脚の先端に爪があることがわかる。クサグモに限らず造網性のクモはこうした爪を持っており(↑のオニグモの写真参照)、網の上を歩くのに都合が良いと考えられる。

 

ジグモ(ジグモ科)

地面に穴を掘り袋状の巣をつくるクモ。オスはメスより脚が長く、腹部が小さく、夏になるとメスを求めて歩き回る(下の写真)。メスは掘り出さない限り見かけることはほぼない。

 

ヤマトコマチグモ(コマチグモ科)

ススキやヨシの葉を巻いて巣をつくるクモ。徘徊性で夜になると外に出てくるらしい。近縁のカバキコマチグモとは姿が似ており、同所的に住んでいる場合もあるのでしばしば間違えられる。カバキコマチは日本在来のクモの中では最も毒が強いとも言われる(信憑性は不明)が、ヤマトコマチは果たしてどの程度なのか?

 

造網性のクモは網や糸という武器があるためか、自分より遥かに大きな相手や、強力な武器を持つ相手も無力化できる(↓)。英名のスパイダーとは「糸を紡ぐ(spin)もの」の意味。クモの糸と網はクモの繁栄に大きく貢献したことだろう。

 

アオバハゴロモを捕らえたニホンヒメグモ(ヒメグモ科)。このクモの網には粘着物質はないそうだが、それでも糸を使えばこれほどの大きさの獲物を仕留められるのである。

 

2匹のキアシドクガを捕らえたゴミグモ。下の2つの白い棒状のものが、糸でグルグル巻きにされたキアシドクガ。おそらく仕留めたガを食事中にもう1匹ガがかかったものと思われる。多くの獲物を捕らえることができるのも網の利点である。

 

ヒガシニホントカゲの幼体を捕らえたナガコガネグモ。このクモの網は地上から20cmくらいの高さにあった。空を飛ばないトカゲが、いったいどういう状況で網にかかったのだろうか?

 

網を張らないハエトリグモやカニグモも、自分より大きな獲物を仕留めることがあるが、残念ながら筆者はそうした場面をほとんど見たことがない。食事中のシーンはよく見るが。というかハエトリグモは普段ちょこまか動き回るので食事中とかでないとゆっくり観察や撮影ができない。

ネコハエトリ

 

しかしクモとて無敵ではない。脊椎動物や大型昆虫には餌にされてしまうし、ベッコウバチなどの狩りバチや、クモヒメバチなどの寄生蜂にも狙われる。

ジョロウグモを見つめるオオカマキリ

網の上に居れば基本的には安全だが、トンボやハチなど飛行能力の高い昆虫は、網の上のクモを捕らえることもある。クモヒメバチやクモを主食とするクモも網の上のクモに接近する方法、あるいは誘い出す方法を知っており、捕らえる。

オナガグモやセンショウグモなど、クモを主食とするクモは多く知られているが、意外とハエトリグモもクモを捕食している。ケアシハエトリというクモを主食とするハエトリグモがいるが、その他のハエトリグモもクモを捕食しているところをしばしば見かける。

カニグモの一種を捕食するマミジロハエトリ。自分とほぼ同サイズの大物である。

 

こちらはネコハエトリ。捕食されているのはやはりカニグモの一種(ガザミグモ?)。草の上などで獲物を待ち伏せカニグモは、ハエトリグモに見つかりやすいのだろうか?

 

さらに共食いも珍しくない。

ネコハエトリの共食い。ほぼ同じサイズのオス同士の共食いである。

 

ジョロウグモの共食い。こちらはメス同士。食われている側は網にかかっているが、ジョロウグモのメスは普通、各々で網を張り獲物を待つはず。一方のメスがもう一方のメスの網に侵入したのだろうか?もしそうなら、なぜそのような状況になったのか?疑問は尽きない。

この他、交接のためオスがメスに近づくと食われることがあるらしい。

 

クモに限らず節足動物はネガティブなイメージを持たれがちである。だが、よく見ればとても面白く、可愛らしい生き物である。クモの仲間は日本には1700種弱が知られており、様々な環境に様々なクモがいる。そのため、少し探せば知らない種に出会える。クモに限った話ではないが。

もう少しで春。鳥や虫だけでなく、クモにも注意して見てみたい。