コミュ障カラスの生き物ブログ

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アカミミガメとアメリカザリガニ

最近外来種がTVやネットなどで取り上げられることが増えたような気がする。特にアカミミガメとアメリカザリガニ特定外来生物(厳密には条件付特定外来生物)指定は話題になった(詳しく知りたい方は環境省ホームページで→2023年6月1日よりアカミミガメ・アメリカザリガニの規制が始まります! | 日本の外来種対策 | 外来生物法)。しかし、人々の外来種に対する理解は相変わらずな気がする。

外来種の話をすると必ず「人も外来種」とか「生態系は外来種によってつくられる」とか言う人が出てくるが、そうした発言は外来種とは何かを理解していないがゆえに出るものである。

外来種とは、導入(意図的・非意図的を問わず人為的に、過去あるいは現在の自然分布域外へ移動させること。導入の時期は問わない。)によりその自然分布域の外に生息する生き物のこと(環境省ホームページより)。本来の生息域外であれば、国内においても外来種となり得る。つまり外来種は「人によって持ち込まれた生き物」であり、最初から人は対象外であるし、自力(運を含む)で移動してきた生き物は外来種ではない。

また、時々出てくる発言として「外来種は明治時代以降に持ち込まれたもの」というものがある。某園長も過去にこのような発言をしていたのだが、前述の通り外来種は導入の時期は問わないので、これも誤りである。これは外来生物法(正式名称:特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律に基づき指定される特定外来生物との混同と思われる。

外来生物法において、外来生物とは海外から日本に導入された生き物のことで、国内外来種は含まない。そして特定外来生物とは、明治時代以降に導入された外来生物のうち、農林水産業、人の生命・身体、生態系に被害を及ぼすまたは及ぼすおそれがあるものの中から外来生物法に基づき指定された生き物のこと。つまり特定外来生物とは「外来種のうち外国産の中で、最近持ち込まれた特にヤベー奴ら」ということである。特定外来生物外来生物に、外来生物外来種に完全に包含され、時期を指定されているのは特定外来生物のみであるため、「外来種は明治時代以降に持ち込まれたもの」という認識は誤りである。

※補足だが「生態系被害防止外来種リスト」という環境省農水省が作成したリストがあり、特定外来生物はこのリストに掲載されているものの中で「明治時代以降」で「特に侵略性が高いもの」から選んでいる。リスト掲載種には江戸時代以前のものや未定着のものもいる。そしてこのリストの作成に伴い要注意外来生物リストが廃止されることとなった。

なお「それなら稲も外来種になるではないか!」という人も出てくるが、それはその通りである。家畜や農作物はほとんどが外来種となる。それでも問題にならないのはそれらが人の管理下にある、あるいは人の管理下でなければ生きられないからである。人の管理下であれば農作物や生態系や人の命に被害を及ぼすおそれは低い。しかし、それらが野生化し、人の管理下から外れてしまうと、途端に問題となる。そのため、外来種対策には飼育・栽培している人への教育や啓発も含まれる。

 

さて、長々と難しい話をしたが、今年の6月から規制が始まるということで、アカミミガメやアメリカザリガニの記事を書いてみようと思い立っただけのことである。記事にするにあたって改めて調べてみると、知らなかったことがたくさんあった(例えば要注意外来生物が廃止されたことを筆者は知らなかった)うえ、上記のような外来種に対する誤解も多く目につき、これは伝えたほうが良いだろうと思ったことを書いてるうちになんか堅苦しい冒頭が出来上がってしまった。ここから先は筆者が書きたいことをテキトーに書き散らしているだけなので、気楽に読んでほしい。

 

アカミミガメ(2023年6月1日より条件付特定外来生物指定予定)

今や日本で最も普通に見られるカメといっても良いだろう。原産地は米国東南部からメキシコにかけてで、3亜種にわかれる。かつては南米まで分布し14の亜種があると言われていた(国立環境研究所の記述もそれに基づいたもの→ミシシッピアカミミガメ / 国立環境研究所 侵入生物DB)が、その後分類が見直されたようである。日本でよく見られるのは亜種ミシシッピアカミミガメTrachemys scripta elegans)だが、その他の2亜種も条件付特定外来生物として規制対象となる。

なお、条件付特定外来生物とは、特定外来生物の規制の一部を、当分の間、適用除外とする(規制の一部がかからない)生物の通称であり、要するに普通の特定外来生物であればアウトなことが一部はオッケーになるということ。アカミミガメとアメリカザリガニの場合は、一般家庭での飼育や無償での譲渡が可能である。詳しくは環境省のホームページで→2023年6月1日よりアカミミガメ・アメリカザリガニの規制が始まります! | 日本の外来種対策 | 外来生物法

成体は甲長20cmを超えるが、小さいうちはとても可愛らしく思わず飼ってみたくなる。実際相当数が飼育されているであろうことは容易に想像できる。かつて特定外来生物の指定が見送られたり、今回規制が一部かからなかったりしたのは、規制されることで一斉に捨てられることを避けるためである。ちなみに成長すると気性が荒くなると言われているが、別にそんなことはないという人も。たまにTV等で、捕獲した個体が威嚇しているシーンを流して、気性が荒いと言う場面が見られるが、人間に捕まって警戒し威嚇している個体を指して、気性が荒いというのは違う気がする。

幼体は緑色をしているためミドリガメの名でも知られる。緑一色ではなく細かい縞模様であるが、加齢とともに緑色の部分は黒っぽくなり、成体は黄色と黒の縞模様となる。でも赤い筋模様は成体になってもそのまんま。

では、読者の皆様は上の3枚の写真に写っている黒いカメ、何だかわかるだろうか?実はすべてアカミミガメである。前述の通りアカミミガメの成体は、黄色と黒の縞模様で耳元は赤いが、オスは年をとると縞模様や耳元の模様も消失し黒化することが知られている。成長に伴う黒化はクサガメでも知られているが、何か利点があるのかは不明。なお、甲羅の色は逆に薄くなる個体もいる(↓の写真)。

オスの成体は前肢の爪が長く伸びる。しかしこの爪は武器ではなく求愛のための飾りである。オスはメスの顔の前で前肢を振るわせて求愛する。ちなみに繁殖期は主に春と秋だが、気温・水温が高ければ年中繁殖可能である。

筆者にとって、アカミミガメは最も普通のカメである。筆者の体感だが、川や池で日光浴をしているカメは9割くらいアカミミガメで、その他のカメはほとんど見ない。また、夏祭りの屋台で「カメすくい」として幼体が売られているところも見たときは、噂は本当だったのだと逆に感動した。本当に当たり前に存在するカメであり、外来種だけど、もはや日本のカメの代表格ではないだろうか。

なお、アカミミガメ以外にも野外で見つかった外来のカメはおり、アカミミガメが規制されたことで他のカメがアカミミガメのような「大量輸入・生産→大量遺棄・逸出→規制」という流れにならないかを、筆者は少し心配している。もしそうなればありとあらゆる生き物の飼育・販売に許可や免許が必要になるだろう。ただ、そんなことになるということは、人々のモラルが非常に低いままであるということで、さすがに一般の人々も業界の人たちも、そんな未来は望んでいないだろう。地道な教育・啓発はいつか実を結ぶはずである。

 

アメリカザリガニ(2023年6月1日より条件付特定外来生物指定予定)

読者の皆様はザリガニ釣りをやったことがあるだろうか?実家の近所に池や川が多かった筆者にとって、ザリガニ釣りは一般的な遊びであった。子どもの頃は、まさか外来種などとは考えもしなかった。日本には1927年の5月12日、当時養殖されていたウシガエルの餌として、神奈川県大船の池に持ち込まれたのが最初である。少し前まで持ち込まれたのは昭和5年(1930年)とされていたが、その後昭和2年(1927年)であったと発覚した。また、アメリカから出荷されたザリガニは約100匹いたのだが、日本に生きてたどり着いたのは20匹ほど(27匹とも)であった。100年近く前の輸送技術なので仕方ない部分はあったのだろうが、ザリガニの中でもトップクラスの強健さを持つアメザリの7~8割が死ぬとは、どれだけ過酷な旅だったのだろうか。ちなみに、アメザリが日本に持ち込まれたのはこの1回だけ(イレギュラーな輸入はあったようだが)であり、日本のアメザリのほぼすべてはこの20数匹が祖先であると考えられている。

筆者が子どもの頃は、アメリカザリガニは在来種に影響を与えず、日本の環境に上手く入り込んだなどと言われていた。しかし最近になって水草を切断するなどして、生態系に大きな影響を与えることが判明した。なぜ最近になって判明したのかというと、かつての農薬や圃場整備による水生生物の激減と、アメザリの分布拡大が同時に起こっていたため、影響の大きさに気づかれないまま、最近になってアメザリ未侵入の湿地帯が発見・注目され、そこがアメザリの侵入によって崩壊する様子が観察されたためであるとされる。生態系に与える影響が判明した今、現状を放置するわけにもいかず、アカミミガメとともに2023年6月1日より条件付特定外来生物に指定されることとなった。今回の指定によって、外国産のザリガニはすべて特定外来生物に指定された。ただ、アメザリに関しては条件付特定外来生物であり、一般家庭での飼育や無償での譲渡は(当分の間は)オッケーである。詳しくは環境省のホームページで→2023年6月1日よりアカミミガメ・アメリカザリガニの規制が始まります! | 日本の外来種対策 | 外来生物法

アメリカザリガニに交ざって小さくて茶色いザリガニを見たり捕ったりした人は多いと思われる。これをニホンザリガニだと思っている人も少なくないが、実はアメリカザリガニの幼体である。アメザリは幼体のうちは茶色く、成長するにしたがって赤くなる。図鑑などに載っているアメザリは大抵成体であるため、両者が結びつかないのも仕方ない部分はあるのかもしれない。とはいえニホンザリガニとは体型、ハサミの形状、額の角の形が異なるし、何よりニホンザリガニは北海道や東北の、湧水があるような水温の低い清流に棲む種であり、アメザリとは生息環境が全く異なる。この2種が同じ環境で見つかることはほぼなく、ニホンザリガニの減少にアメザリはあまり関与していないと考えられる。ニホンザリガニに影響を与えているのは冷水を好むウチダザリガニである。

※余談だがニホンザリガニは栃木県で人為放流された個体群が生き残っているほか、自然分布とされている東北の個体群も、北海道から持ち込まれ放流されたものなのではないか、という疑惑があった。しかし2012年に発表された論文によると、北海道の渡島半島南部の個体群と、東北地方下北半島北部の個体群では遺伝的分化が小さく、津軽海峡は近い過去に陸続きであった可能性があるという、前述の疑惑を否定する考察がなされている。とはいえこの論文のメインは「ニホンザリガニには別種レベルに分化した2グループがあり、東部グループは日高南部から急速に分布を拡大、西部グループは札幌付近を中心に、南北にゆっくりと分布を拡大した」という点である。

論文はコチラ↓

Koizumi, I., Usio, N., Kawai, T., Azuma, N., Masuda, R. (2012) Loss of genetic diversity means loss of geological information: the endangered Japanese crayfish exhibits remarkable historical footprint. PLoS ONE, 7: e33986. doi:10.1371/journal.pone.0033986

論文は英語なので筆者のような英語が苦手な人はこちらの紹介記事がオススメ↓

二ホンザリガニのDNAには北日本の地史情報などが刻まれている -北大が発見 | TECH+(テックプラス)

 

なお、アメザリの成体は普通赤いが、時折白い個体や青い個体が見つかることがある。アメザリはカロテンを含まない餌を食べ続けると青くなったり白くなったりするが、そういうわけではなく最初から白や青なのである。観賞用に固定された系統があったり、一代限りであっても流通したりするなどかなり人気らしい。筆者も色変わりのアメザリが売られているのは見たことがあり、初めて見たときのことはよく覚えている。1つの水槽に大量に入れられ、売られている餌用ザリガニに、1匹だけ白ヒゲが交じっていた。ポップにも白ヒゲの文字はなく、おそらく気づかれていなかったのだろう。それを見てなんだか残念な気持ちになった。

アメザリに限った話ではないが、彼らは鰓が濡れていれば空気中からも酸素を取り込める。そのため雨上がりなど湿度が高い日には、陸地を歩くザリガニを目にすることがある。外来の水生生物を駆除する際に水を抜くという方法がとられることがあるが、ザリガニの場合しばらく生き延びることが出来てしまうので、すぐに水を戻すと天敵の大型魚がいなくなった池がザリガニ天国になりかねない。すぐに水を戻さなくても、水場を求めザリガニが拡散するおそれがある。外来種の駆除は綿密な計画を立てて行う必要がある。

↑の写真は獲物を食べていたアメザリ(写真奥)に、匂いを嗅ぎ付けたのか別のアメザリが近寄ってきてつかみかかったところ。この後は乱闘。スルメで釣るため肉食のイメージがあるかもしれないが、アメザリは雑食で、水草や落ち葉などの植物質も食べる。飼育下では流木や鶏卵の殻を食べた話もあり、筆者が子どもの頃飼っていたアメザリも、一部の個体は流木や卵の殻を食べていた。

デトリタス?を食べるアメザリ。食事に使うのはハサミ(第1歩脚)よりも第2歩脚や第3歩脚。

筆者の子どもの頃、身近に見られるものの中で、アメリカザリガニは最も大きな節足動物で、独特な存在感を放つ生き物であった。体もハサミも、スジエビどころかテナガエビよりも遥かにデカいので、大きなハサミを持つ成体のオスは、子どもたちの憧れであった。大型の個体ほどハサミも大きく、ゴツくなる傾向があり、そんな個体はブルドーザーのごとき迫力がある。子どもの頃、当然のように持ち帰って飼育していたが、子どもの性ですぐに世話をしなくなる。しかし強健過ぎて水換えや餌やりをサボっても生き延びてしまうため、むしろ自分の杜撰な飼育管理を見つめ直すことになった。カロテンを含まない餌を与え続けた覚えがないのに、脱皮するたび青くなっていく個体が何匹かいたが、カロテンだけでなく、栄養素全体(つまり餌そのもの)が不足していたのかもしれない。青くなったアメザリは長生きできないと知り、なんとか色を戻そうとしたものである。結局色は戻せなかったが、皮肉にも我が家で最も長く生きたのはそうした青くなったザリガニたちであり、およそ3年間、青くなってからも2年近く生きていた。長く飼育している個体は筆者が水槽に近づくと餌をくれると思うのか、水槽の前面に出てきたり、水面をハサミや歩脚で探ったりしていた。無脊椎動物でもこうした行動をとることを、筆者はアメリカザリガニで知った。

なお、日本に定着している外来のザリガニはアメリカザリガニウチダザリガニの2種のみであるが、強健で、かつ単為生殖を行うという激ヤバなザリガニであるミステリークレイフィッシュ(マーブルクレイフィッシュ)が、2006年に北海道札幌市で、2016年に愛媛県松山市で確認されたことがある(定着はしなかった)。アメザリ以外のすべての外国産ザリガニが特定外来生物に指定され、規制が始まったのは2020年11月2日のこと。ちょっと遅いような気もするが、定着する前に規制されたので良かったと言うべきだろう。ただ、巨大なハサミを持つヤビーや、漆黒のクーナック、ゴツゴツとした厳ついボディを持つマロンなど、子どもの頃に図鑑で見て、憧れていたザリガニたちをもう飼えないというのは残念ではある。

 

アカミミガメもアメリカザリガニも、今や多くの日本人にとって身近な生き物である。そのため駆除に反対の声も多いが、罪は無くとも害はあるのだし、人が持ち込んだからこそ人が責任を持って取り除いているのである。これ以上悪者にしないためにも、せめて広めないようにしてほしいものである。