ついにこの日が、という感じ。
ムネアカハラビロカマキリを見つけました。
ただし近所ではない。東京都の名所、高尾山である。
経緯を説明すると、大学の実習で高尾山へ行き無事に実習を終えたのだが、高尾山といえば虫の聖地といっても過言ではないほど有名な場所である。そのまま帰るのはもったいないのでしばらく虫を捕っていたのだ。
とはいえ実習が終わったのは夜。真っ暗な山の中を歩くのはさすがに怖いので街灯があるところのみにした。
この時点で19:30頃。すっかり暗くなっている。
昼の景色を見られなかったのが残念だが夜景が綺麗なので良し。
小さめの蛾やゴミムシやトビケラ?などがいるが思っていたよりも少ない。そういやTwitterで誰かが最近はLEDだから虫が来ないとか言ってたっけ。
コアシダカグモ?アシダカに比べずいぶん脚が短いが果たして種差なのか性差なのか個体差なのか。
ここで明かりの近くにカマキリを発見。ハラビロカマキリのようだ。カマキリは好きだが(というか好きだから?)標本のために捕ろうとは思わないのでスルー(僕は最近は標本にするための虫捕りしかしません。この行いについては意見がわかれるでしょうがあんまり捕ると罪悪感を覚えるので、すでに標本をつくった種や標本をつくれる自信がない種は捕らないようにしています)。
しばらく歩くと妙なものを発見。
車に轢かれたカマキリの死骸だった。胴体の太さからオオカマキリかと思ったがそれにしては長さが短い気がする。それに後翅が透明なのでオオカマキリではない。気になったので前胸をひっくり返してみた。
んん?赤い?死後時間が経ってだいぶ色褪せているが前胸腹面以外は緑色をしているように見える。
もしかしてこれがムネアカ?
でも死骸じゃあ僕のような素人が同定するのは難しい・・・・待てよ、さっきハラビロがいたな。ムネアカが侵入した地域は数年でハラビロがいなくなると聞いたことがある。さっきのハラビロが在来種ならこの死骸は正体不明のカマキリで終わるが、もしもムネアカならこの個体もムネアカの可能性が高い。確認せねば。
急いで先ほどの場所へ戻る。幸いカマキリはほとんど移動しておらずすぐに見つけられた。
ムネアカだーーーーー!!!
ムネアカハラビロカマキリ
正直ムネアカはずっと見てみたかった生き物の1つで、ようやく見れたという喜びが外来種が生息しているという哀しみを上回る。
「ムネアカ」の名の通り前胸腹面が赤い。まあ「ムネアカハラビロカマキリ」という和名はネット上でつけられた通称らしいけど。なんでもムネアカの正体とされるカマキリのホロタイプがなくなってしまって調べられないらしい。ちなみに在来のハラビロの前胸腹面には紫がかった2本線がある。
ネット上の写真では在来のハラビロとかなり違って見えたので簡単に識別できると思っていたが、パッと見ただけではわかりづらい。まあ同じ属なんだから似てるよなそりゃあ。
ネットではオオカマキリに匹敵するほど大きいと書かれたりしてたけどこの個体はそんなに大きくない。全長を計ってみると68mmだった。ただカマキリは成虫の大きさの差が激しい(オスのほうが小さいという傾向はあるが、オス同士、メス同士でもかなり差が激しい)のでなかにはオオカマに匹敵するものがいるかもしれないし、小さいオオカマと大きいムネアカだと大きさが逆転するかもしれない。
在来のハラビロよりスラッとしている。特に前胸。じっくり見るとハラビロとはかなり違うが、それ故に間違えたことがすごい悔しい。ちなみにこの個体はオスなのでメスはもっと太いと思われる。まあこの個体でもハラビロのメスくらいの太さはあるんだけど。
前脚基節にも違いがある。ハラビロはここに3〜4個の黄色いイボがあるが、ムネアカは小さいトゲで、しかもたくさんある。
この個体は駆除も兼ねて持ち帰って標本にすることにした。カマキリの標本は初めてだが体が大きいので多少はやりやすいだろう。かっこいいからあんまりやりたくないけどなぁ・・・
後日、内臓を取り除くために腹を裂くとハリガネムシが出てきました。その長さはなんと25.5cm。楕円形の輪を描くようにくるくる丸まって入っていた。内臓はちょっとだけでたぶんハリガネムシの占める割合のほうが多い。ハラビロとムネアカは他のカマキリに比べハリガネムシに寄生されている割合が高いらしい。なんでだろう?
ちなみにムネアカハラビロカマキリの分布は20都府県に及ぶという(苅部・加賀 , 2019)。ムネアカが日本に侵入した理由は飼育していた個体が逃げ出したとかではなく、中国製の竹箒に卵嚢(卵鞘)がついていて、それが販売されて拡がったらしい。普通こういうのは厳しいチェックがされるが、チェックをすり抜けるルートに乗ってきた格安竹箒についていたという噂である。あくまで噂であるが、あんまり安いとちょっと考えたほうが良いのかな?と思ってしまう。