※長文&写真多すぎ注意
行ってきました。国立科学博物館特別展「化石ハンター展~ゴビ砂漠の恐竜とヒマラヤの超大型獣~」
夏休みくらいには行く予定だったけど、色々ありまして終了ギリギリの10月8日にようやく行けました。
11:30の入場に予約したんだけど、電車の遅延で20分以上遅れて到着。着いたときには12:00入場を予約した人たちが入り始めており、ギリギリで滑り込んだ。
イワシクジラ(上)とツチクジラ(下)
中に入るとイワシクジラの頭骨とツチクジラの全身骨格がお出迎え。ロイ・チャップマン・アンドリュースといえば、古生物マニアなら知らない人はいないくらいの人であるが、日本でクジラの調査を行っていたとは全く知らなかった。着物着てる写真もあってビビる。
ちょこちょこ挟まるコラム。日常会話には不自由しなかったってすごいな。英語すらからきしな筆者からするとアンドリュースってめちゃくちゃ万能な人に見える。
よく見ると「イラスト:ツク之助」って書いてある!らえらぷすさんが恐竜博2019でいくつか骨格図を描いていたことは知っていたけどツク之助さんもか。こういうのを見るとこの人たちってすごい人なんだなって思ってしまう(語彙力)。
※Twitterをフォローしていたりグッズを持っていたりするだけで、お二方とは全く交流はありません。
プシッタコサウルスの一種(Psittacosaurus sp.)
中国が有名だけどそういやモンゴルでも発見されてたな。ただ展示されているのは中国産だそう。ミイラ状の化石とのことで確かに胴体部分の骨の上に何かが覆いかぶさっているように見える。
横に展示されていた復元骨格なんだけど、尾椎の一部が癒合している。これはなんだろう?
プロトケラトプス・アンドリューシ(Protoceratops andrewsi)
トリケラトプスほど成長段階における差は見られない。角という目立つ装飾が無いからというのもあるが。みんな丸顔の中、2番目に小さい個体はやけに面長なんだけど、そういう特徴なのか変形なのか。
プロトケラトプスの頭骨はかなり高さがあって丸い....というかゴツい。噛まれたら指どころか手まで持っていかれそうな雰囲気が漂っている。そして前歯は何のために使ったんだろう?生前に外から見えたのかも怪しい小ささだけど.... なお前歯はトリケラトプスなどでは失われている。
ヘユアンニア・ヤンシニ(Heyuannia yanshini)
これは元インゲニアだからアジャンキンゲニアじゃないの?と思ったけど
インゲニアからアジャンキンゲニアに変更(2013年)→ヘユアンニア(2002年記載)と同属の可能性→先に記載されたのでヘユアンニアが有効
という流れらしい。
ヴェロキラプトル・モンゴリエンシス(Velociraptor mongoliensis)
ジュラシックパークシリーズで有名になり、その後はジュラシックパークとの落差という面で語られている恐竜。小さくても羽毛があってもかっこいいと思うのはまだ少数派なのだろうか?羽毛恐竜が当たり前に図鑑に登場する最近の若い世代はそうでないと信じたい(自分もまだ20代だけど)。
ドロマエオサウルス類の特徴である硬くなった尾。尾椎の一部が伸びて絡み合い、癒合している。しなる程度の柔軟性はあるがクネクネさせたりはできない。尾の付け根にはこの構造はないのでよく動く。
頭骨。ヴェロキラプトルにはツァーガン(Tsaagan)というそっくりさんがいて、ツァーガンっぽいものがヴェロキラプトルとして出回っていることがときどきあるらしい。この標本はどうなんだろう?
隣にもヴェロキラプトルの頭骨。上はホロタイプのレプリカ。この標本(もちろん頭骨以外の要素も発見されていた)をもとにヴェロキラプトルを命名したのがかのヘンリー・F・オズボーンである。下の頭骨は詳しく知らないがこちらもヴェロキラプトルとのこと。随分変形が激しい。
ザナバザル・ジュニア(Zanabazar junior)
モンゴルで発見された大型のトロオドン類。発見当初はサウロルニトイデスの一種であるとされていた。アンドリュースの遠征で見つかったのはサウロルニトイデスなんだけど、その代理で来たのかな?ちなみにアンドリュースが見つけた種にはサウロルニトイデス・モンゴリエンシス(Saurornithoides mongoliensis)という名がつけられている。
タルボサウルス・バタール(Tarbosaurus bataar)
アンドリュースがモンゴルを去った後、戦争などの社会情勢もありゴビ砂漠での調査は中断されていたが、1946年にソ連の調査隊が入り、いきなりタルボサウルスを掘り当てた。その後中国やモンゴルの科学者も加わり1949年までに7体ものタルボサウルスを発掘した。そのチーム凄すぎんか?
アヴィミムス・ポルテントスス(Avimimus portentosus)
原始的なオヴィラプトル類であり上顎には歯が残っているとのことだが、この標本では歯はよくわからなかった。2006年、2007年、2016年の調査でボーンベッドが発掘され群れをつくっていた可能性が指摘されているとのこと。だからNHKで群れの疾走シーンがあったのかと一人納得。
前肢の指は小さく結構鳥っぽい。後肢は真ん中の指が長い(というか左右が短い?)。尾も短いしかなり鳥っぽい見た目。さすが鳥もどき。とはいえどこまでが化石に基づいてつくられたものかはよくわかんない。
アークトメタターサル(アルクトメタターサル)構造があること、大腿骨より脛骨、脛骨より踵から指先までが長いことは、速く走る生き物の特徴である。
比較用にコンコラプトル幼体(上)とガリミムス幼体(中)とシノルニトミムス亜成体(下)の後肢。アヴィミムスの後肢のプロポーションはまるでオルニトミモサウルス類である。
バガケラトプス・ロジェストヴェンスキーイ(Bagaceratops rozhdestvenskyi)
とても小さな角竜。大人から子供まで計25個の頭骨が発見されているが、最も大きいものでも26cmしかないという。展示されているのは最小の頭骨でわずか4cm。
ちなみにヴァガケラトプス(Vagaceratops)は名前は似ているが北米に生息していたケラトプス科カスモサウルス亜科の全く別の恐竜である(バガケラトプスはプロトケラトプス科)。
シノルニトイデス・ヤンギ(Sinornithoides youngi)
後肢が胴体の上にあるし、烏口骨が見えてるし仰向けの状態のようである。トロオドン類の寝姿といえばメイ(Mei)が有名だが、こちらも寝姿のまま化石となっている。なんならメイよりも10年以上早く記載されているんだが....
シティパティ・オスモルスカエ(Citipati osmolskae)
お馴染み“ビッグ・ママ”(Big Mama)。まさかとは思ったがやっぱりいた。2年連続で見ることになるとは思わなかった(→恐竜科学博 ララミディア大陸の恐竜物語 - コミュ障カラスの生き物ブログ)。
モノニクス・オレクラヌス(Mononykus olecranus)
恐竜科学博でも登場したモノニクス。実は標本はホロタイプしか知られていないそう。だからずっとこの姿のままだったのか。
ゴビヴェナトル・モンゴリエンシス(Gobivenator mongoliensis)
ネメグトマイア・バルスボルディ(Nemegtomaia barsboldi)
発見に日本人が関わった2種。ネメグトマイアは1996年(2004年にネメグティアと記載されたが2005年にネメグトマイアに変更)、ゴビヴェナトルは2007年(記載は2014年)とそれなりに新しく発見された恐竜である。
シノルニトミムス・ドンギ(Sinornithomimus dongi)
少なくとも14個体からなるボーンベッドが発見されている。展示されているブロックには8個体いるらしいが、折り重なっていてよくわからない。それでもよく見てみると、頭骨とそれに連なる頸椎が見える(写真右上)。そこから写真左下に向かって背骨が伸び、その先に骨盤と後肢があるためこれで1個体であるとわかる。そしてその個体の骨盤のすぐ上に別個体の椎骨が乗っかっており、その左上に後肢と反り返った頸椎が続いていることから、2個体が✕を描くように重なっているのだとわかる。なんだか迷路を解いているような気分になる。
シノルニトミムスといえば胃石。数千個もの小さな石が発見され、その大きさや数から植物食であったと考えられる。
パラケラテリウム・トランスオウラリクム(Paraceratherium transouralicum)
史上最大級の陸棲哺乳類。恐竜と勘違いしていた人もいたが仕方ないだろう。なんせゾウよりもデカいのだから。筆者の子供の頃はインドリコテリウムだった。サイとキリンの合いの子のようなインドリコテリウムに対し、バルキテリウムとパラケラテリウムは足の長いサイみたいな姿に復元されていた。そしてなぜかインドリコテリウムに比べ彼らが載っている図鑑は少なかった。
足元の頭骨はバルキテリウム・グランゲリ(Baluchitherium grangeri)のタイプ標本だったもの。現時点ではP. transouralicumにまとめられているが、最近になって属はともかくgrangeriという種は有効であるという説が出てきたらしい。今後どうなるのだろう。
この肢の長さと太さ、本当に哺乳類というより恐竜みたい。こんな哺乳類がかつて地上にいたとは....
クリケトプス・ドルミター(Cricetops dormitor)
当時の代表的な齧歯類。サブタイトルには超大型獣とあるけどこういう小型哺乳類も入れるあたり本気度がうかがえる。そういやFMヨコハマのラジオ番組に総合監修の木村さん(だったかな?)が出演されたとき、「自分の研究分野である小型哺乳類を組み込んだ」みたいなことを話してたけどもしかしてこれ?
そして「復元画:ツク之助」。ツク之助さんこういう絵も描くんだ.... 可愛くデフォルメされた絵のイメージが強くて....(あんまツク之助さんのこと知らないのがバレる)
アンドリューサルクス・モンゴリエンシス(Andrewsarchus mongoliensis)
長さ80cmを超える下顎を欠いた頭蓋骨のみが知られる大型肉食哺乳類。なぜか逆さまに置かれている。最初はエンテロドン類に近いと言われ、その後メソニクス類に近いと言われ、近年再びエンテロドン類に近いと言われている。あくまでもエンテロドン科が最も近いというだけでエンテロドン科に含まれるわけではないらしいが。追加標本の発見まで居場所が落ち着くことはないだろう。
アンドリューサルクスの歯はどれも先端が尖っておらず、突き刺したり噛み切ったりするより嚙み砕くことに向いてそう。大きく広がった頬骨弓も嚙む力が強かったことを示している。ハイエナのように骨ごとバリバリ嚙み砕いてそうだが....?
下顎を再現した復元。この顔は確かにエンテロドン類と言われても納得してしまいそう。
プラティベロドン・グランゲリ(Platybelodon grangeri)
ちょっと前にTwitterで失敗作と言われ軽く炎上してた。「生き物は環境に合わせて最適になるように進化する」って言われると、「じゃあ絶滅動物は最適化できなかった失敗作なんだな!」とか「じゃあ今が一番最適な形になってるんだな!」と思ってしまうのは仕方ないかもしれない。容認はできないけど(過去のものを否定するのが容認できないだけで、今が最適ってのは間違いではない)。目に見えるようなものではないとはいえ、今でも環境は変化し続け、生き物は進化し続けていることに気づく人は多くない。そして「その時点での最適」は結構脆いものだし、生き物の体もそんなに柔軟じゃない。それでいてジェネラリストは多くの場合スペシャリストに勝てない。その結果として進化と絶滅がある。このことをわかってもらうのは難しい。
話は変わるけど気になったのが牙の間隔。よくある復元図だと現生のゾウより幅広い鼻を持っていて、その鼻の脇から牙が突き出ているのだが、この頭骨の牙の間隔では間に鼻が通らなさそう。まあこの頭骨が潰れているだけかもしれないが。ちなみに牙は外から見えなかったと考える人もいるらしい。
プラティベロドンが何を食べていたのか、発達した下顎をどう使っていたのかは不明。歯は見た感じ現生のゾウよりもマストドンの歯に似ている。マストドンって木の葉が主食だったらしいしプラティベロドンももしかしたら....?
プラティベロドンの隣にアンドリュースの著作『The New Conquest of Central Asia』なんてのもあったけど個人蔵でしかも原本!?なかなかヤバそうだけどここに置いていて良いの?
ディノクロクタ・ギガンテア(Dinocrocuta gigantea)
左は現生のブチハイエナ。D. giganteaはかつてはペルクロクタ属(Percrocuta)だったが後に他のペルクロクタ属とは分けられた。ハイエナ科ではなくペルクロクタ科であるといわれていたが、最近ハイエナ科である可能性が指摘された。でも昔はハイエナの仲間とされていたらしいから元に戻るということであり、史上最大のハイエナという肩書きが復活することになる。
チベットケサイ(Coelodonta thibetana)
ついにメインであるチベットケサイの親子。ポスターを見たときはケブカサイ(C. antiquitatis ケサイとも)だと思っていたが、より古い時代に生きていた別種だという。ケブカサイは冷凍死体が発掘されているが、さすがにチベットケサイは見つかってないようである。だから角も想像のはず。
以外と軽快な体つきだけど、体は見つかってないっぽいのでほぼケブカサイだと思われる。
ケブカサイよりも歯や頭骨が原始的だそうだけど、歯はともかく頭骨はかなり潰れていたのでその形態で判断して大丈夫だろうか?もちろん修正した上で判断してるんだろうけど。
「アウト・オブ・チベット」仮説についてはなかなか興味深い内容だった。標高が高い地域に適応した生き物が氷河期に生息範囲を広げていったというのはありそう。日本にも生息するライチョウは本来寒冷地の生き物で、氷河期に海が後退した際に日本にやって来て、氷河期が終わり日本が再び島となったときに取り残され、温暖化が進むなか高山でのみ生き残ったという話を思い出した。この場合「アウト・オブ・チベット」仮説とは順序が逆だが、極地と高山帯のつながりを示すものである。
ただ、寒冷地仕様のケサイやホッキョクギツネ、山岳地帯に生息するヒツジやヤギはともかく、ヒョウ亜科(Panthera)についてはユキヒョウはともかく他の種まで巻き込む必要はないのではないか?ユキヒョウの起源がチベットにあることは否定しないが、彼らは今でもヒマラヤ・チベット周辺にしかいない(本来の生息域がどれくらいなのかがわかっていないので断言するのは危険だけど)のでその後に分布を拡大していったという話にもつながらない。氷河期の肉食哺乳類として挙げられるP. spelaea、P. fossilis、P. atroxといった“ホラアナライオン”はライオンに近い種なので、早い時期に分岐したユキヒョウとは関係ないはず。“ホラアナライオン”の起源がチベットにあるのならともかく、この場合はユキヒョウあるいはPanthera属の起源がチベットにあるというだけで、ケサイやヤギのように「寒冷地仕様 or 高山帯仕様の体を手に入れ分布拡大」という流れではない。「アウト・オブ・チベット」仮説はまだ定義すらはっきりしていない新説とはいえ、Panthera属に関しては少々強引なように思われた。
全体として標本の数が多く、かなりの満足感を得られる内容だった。アンドリュースの遠征から現在の調査へ、恐竜から哺乳類へと、2つの視点で時代を下っていき現代につながることを実感し、環境も生き物も変化し続けていること、今も新発見が続いていることを感じさせられ、大きな充実感が得られるものだった。
おまけ
特別展を見終わった後は企画展「WHO ARE WE 観察と発見の生物学」も見に行きました。
手前からベイサオリックス、アフリカスイギュウ、ダマジカ
アフリカスイギュウってこんなだったっけ?と思ったけど、これはたぶん亜種アカスイギュウ(Syncerus caffer nanus)だね。フォレストバッファローとかドワーフバッファローとか呼ばれる亜種。
カモノハシの卵と鳥の卵の比較。だがよく見るとスッポンとイリエワニが紛れ込んでいる。
あまり大きくない展示場だがぎっしり詰め込んであるため見応えは充分。しかしそれ故回転率が悪く常に人だかり。周りの人に気を遣って引き出しの開閉がしづらい。仕方ないことだけどね。
その後は常設展も見に行った。時間も遅かったし軽くだけど。
“サンディ”(Sandy)ことサンディサイトのパキケファロサウルス(Pachycephalosaurus sp.)
90年代に発見されたらしいが未だに未記載のまま。化石ハンター展にもプレノケファレが展示されていたが、それより遥かにゴツい。これでもまだ若い個体である。スティギモロクやドラコレックスと体サイズは同じくらいらしい。
スミロドン・ファタリス(Smilodon fatalis)
ラ・ブレアに2000体も埋まってるとされるスミロドンの代表種であり、サーベルネコ(サーベルタイガー)の代表種でもある。ちょくちょく「ライオンより小さい」といわれるがそれは体長の話。スミロドンは現生ネコより遥かにがっしりとした体つきをしており、体重は250kg以上とされている。これはライオンやトラの大型個体と同じかそれよりも重い(というか「大きい・小さい」という表現がこういう話には不適な気が....)。ちなみにスミロドン属最大種S. populatorは350kg、大型個体であれば400kgを超えたとされ、史上最大級のネコ科動物の1つである。
スミロドンの犬歯は、硬いが薄いつくりで横方向からの力に弱いが、実は頭骨も同じく硬いものの多方向性の衝撃には弱いんだとか(現生ネコやホモテリウムと比較しての話)。そのため獲物を抑え込み、動きを制してから首や腹に噛みついていたとされる。また、突き刺すというより深い裂傷を与えるように切り裂いていたとされる。そうすれば頸動脈や気管を切り裂くことができ、獲物は速やかに死に至るというわけ。(結構エグいな....)
....とこんな風に言われていたが、スミロドンを含むサーベルネコの犬歯はそんなに脆くなかった可能性が指摘されている。サーベルネコの頭骨に、他のサーベルネコの犬歯によって開けられたと思われる穴がしばしば見られるんだとか。アルマジロの仲間グリプトドンの頭骨に、スミロドンによるものと思われる穴が開いていた例もある。いつも使う方法かはわからないが、時には相手の脳天にこの牙を突き立てていたようである。
常設展の展示をそのまま使っているので所々こんな看板が。自分のとこにあるんなら当然それ使うわな。輸送する手間も金もかからんし。
この後帰路に着いたがまたもや電車が遅延した。行きとは別の路線で。ついてないな....